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月食に願いを

 投稿者:てぃーえむ  投稿日:2007年 9月 2日(日)22時05分48秒
   ここは、毎度おなじみハンターカフェ。
 その窓際の席で、いちごはほおづえをついていた。
 じーっと外を見つめて、たまにため息を吐く。ポニーテイルもしおれて見えるし、まったくもって元気がない。その様子は、愁いを帯びた美少女にしか見えない。いや見えないも何も、いちごは女の子なのだから当然なのだが、彼女の事情を知るものからすれば、おやっと思うだろう。
「どうしたの?」
 そんないちごに声をかける人がいた。ふわふわした雰囲気の女性だ。いちごもよく知る人、事務員の沢田だった。普段はよく相方と一緒に行動しているけれど、今は一人らしい。
「別に……」
 なんでもないと言いたいのだろう。しかし、どうみてもなんでもなくなかったので、沢田はいちごのほっぺをつっついた。
「なにするんですか」
「いちごちゃん、悩み事?」
「だから、別に」
「あ、恋の悩み?」
「違う!」
 いちごはそっぽを向いた。しかし沢田は気にせず、いちごの向かいに座った。
「どう見ても悩んでるじゃない。ほら、お姉さんに相談してみなさい」
 ほらほらと手招きする沢田は、いちごと同年代にしか見えなかった。しかし年上の女性であるのは間違いなく、のんきそうに見えて結構しっかりして……いなくもない。
 いちごは逡巡したが、わざわざ黙っているほどのことでもないと思い直し、口にすることにした。
「このままでいいのかって思ってただけですよ」
「このままって」
「男に戻るんだって言っても、実際は何も出来ないままだし……。最近はなんの努力もしてないし……。はあ……」
 いちごは、男に戻ると言った。そう、彼女は元は男なのである。愁いを帯びた表情で溶けかけたパフェを突く姿は、彼氏とケンカした女子高生にしか見えないのだが。
「この先もずっとこうなのかと思うと」
「ふーん。なるほどなるほど」
 沢田は腕を組んで、何度も頷いた。そして提案する。
「じゃあ、占ってもらう?」
「占いですか?」
 いちごはうさんくさそうに眉をひそめた。
「そ。すぐそこに、良く当たる占い師さんがいるんだよ。相談してみたら?」
「はあ……」
「じゃ、案内するね」
 沢田はいちごの手を引いて、カフェの奥のテーブルまでやって来た。
 そこには女の子が一人、座っていた。何度か見かけたことがある。中学生だがなぜかハンターをしている少女だ。
「空奈ちゃん。お客様連れてきたよー」
「……。ごきげんよう」
 少女はちゃんと顔を向けて丁寧に頭を下げたが、すぐに目線を元の位置に戻した。あまり、人付き合いが得意ではないらしい。
「この娘、いちごちゃん。知ってるよね?」
「ええ。有名だから」
 少女が頷くのを確認して、沢田はいちごに向き直る。
「で、この子が影鳥空奈ちゃん。占いが得意なんだよ」
「はあ……」
「そんなわけで、早速占ってくれる?」
 さっさと話を進めようとする沢田に、いちごはちょっと慌てた。
「いや、そんないきなり言われたら困るんじゃないか?」
「…………」
 頼まれた空奈は、ひどく憂鬱そうな顔をした。これは気分を害してしまったのかなといちごは心配したが、空奈は首を振った。いちごの心配を見抜いたらしい。
「もったいぶっても一緒だからはっきり言うわ。無理よ」
 空奈は断言した。憂鬱そうだったのは、このことを述べるのに気が重かったかららしい。
「ええっ!? あ、でもまだ何も聞いてないけど……」
 一度吃驚して、すぐに小首をかしげる沢田。
「いちごさんが元の姿に戻れるかどうかでしょう?」
「そうだけど……無理なの?」
「ええ」
「でもなにかさ、ないのかな」
「じゃあ、試してみましょうか」
 空奈は懐からカードを取り出した。タロットカードだ。彼女は、それをテーブルの上に広げて見せた。
「一枚どうぞ」
 進められて、いちごは適当にカードを引いた。死神だった。
「…………」
 空奈はカードを集めてよくカットし、もう一度テーブルの上に広げた。
「どうぞ」
 また死神だった。そんなことがさらに10回続く。カードのカットをいちご自身がしても、沢田がしても、通りすがりの人がしても、必ず死神が出るのだ。最初は胡散臭く思っていたいちごも、これにはびびった。
「なんで?」
 いちごが思った事を、沢田が尋ねた。
「そういう運命だから。いちごさんが元の姿に戻る方法はいくつか存在しているけれど、運命がそれを邪魔するのよ。だから戻れないし、一時的に戻れてもすぐにその姿になってしまう。もう、世界にとって見れば、その姿こそがいちごさんの本当の姿なのよ」
 がーんという文字が、いちごの頭の上に落ちてきて、そのまま床に両手をついてしまった。
「お、俺は……一生このままなのか……」
「い、いちごちゃん……。ふぁいと! いちごちゃん可愛いから大丈夫だよ!」
 落ち込むいちごを慰める沢田。
 空奈はしばらく、いちごの姿を見ていたが、やがておずおずと口を開いた。
「あの……ね。方法は……無くもないわ」
「本当か!?」
 いちごはがばっと立ち上がり、空奈に詰め寄った。
「ええ……まあ」
「教えてくれ! 頼む!」
「……りくさんよ」
「りく?」
 りくというのは、小学生くらいの姿をしたうさ耳少女のことである。元は中年男性だったがいろいろあってそんな姿になってしまった。
「今日は皆既月食でしょう。赤く濁った月を、宝石を通してりくさんに覗かせるの。宝石はある程度の大きさ、親指と人差し指の先をくっつけて出来る円くらいの大きさ以上の物で、太陽の力も月の力も受けていない純真な物を使うこと。出来ればルビーがいいけれど、透き通っていれば他のでもかまわないわ。場所はここの屋上で。この通りに……」
 空奈は白紙に奇妙な図を書き込んで、それをいちごに手渡した。
「これの通りに屋上に書き込んで。チョークでも何でも良いわ。図の中心が屋上の中心になること。図は多少ゆがんでもかまわないけど、中心位置だけは正確にね。月食の時間は……だから、そうね、7時から図を書き始めて、7時半に終わるようにするように。あと、書き始めからずっと、りくさんは中心に立ってもらうこと。そして書き終わったらすぐに、りくさんに月を覗かせること。別に難しいことは無いわ、これはいわゆる儀式魔法だから、条件さえそろえば発動できる」
「ぎ、儀式魔法?」
 さすがに、いちごは半信半疑になった。でも空奈はいたってまじめな表情だ。
「りくさんは黒ウサギだから、月食の力を無理なく利用出来る。その力をハンター能力に注げば、一時的にだけど運命を変えるだけの力が出せるわ。もちろん貴女だけではなく、りくさんも自分自身に力を使えば良いし、他の被害者も望めば運命を変えられる。信じる信じないはご自由に」
 いちごは考えた。一見、嘘みたいな話だ。しかし彼女が、占い師としての力を持っていることは確かだった。ならばそっち方面の知識を持っていても不思議ではない。それに彼女の瞳からは嘘は感じられないし、影鳥といえば、昔からオカルト方面でこの国を支えた一族の一つだと聞いた覚えがあった。
「……そうか。いや、信じるよ。なんだってやってやるさ」
 いちごは力強く頷いた。
「そうだ。こんな気持ちだったんだ、この姿に変えられたばかりの頃は。とにかく元に戻りたい。そのためにはどんな努力も惜しまないと! ありがとう空奈! 俺、やってみる!」
 そうしていちごは走り去っていった。ウェイトレスさんに走らないでと怒られたが、きっと聞こえていないだろう。
 後に残された沢田が尋ねた。
「本当に大丈夫なの? 月食を利用するなんて話は聞いたことが無いけど……成功するのかな?」
「運命を変えられるかどうかは、時読みによると……やっぱり不確定要素が多いわね。でもいちごさんの意志が強く時に刻まれてるし、ここに至るまでの全体の流れも悪くない。必要なものはすべてそろってるし、邪魔もない。少なくとも儀式自体は確実に成功するでしょう。あとは間違えない事を祈るだけね」
「そうなんだ……って時読みってなあに?」
「……ちょっとした占いよ。じゃあ、私は失礼するわね。今は……3時か……昼寝でもしましょうか」
 席を立つ空奈に、沢田は声をかける。
「おやすみなさいだね」
「おやすみなさい。叶うのならば、良い夢が見られると良いのだけど」




 一時間ほど探し回ったいちごは、とぼとぼと廊下を歩くりくを見つけた。どうやら出かけていたらしい。
 なんだか随分と元気がない様子でちょっと戸惑ったが、いつも通りに声をかけることにする。
「おい、りく」
「いちご」
 りくはのろのろと顔を上げた。その顔は悲しみに沈んでいた。
「なに景気の悪い顔してるんだよ。なにかあったのか?」
「ああ……実はな……俺……もう駄目かもしれない」
「おいおいそりゃどういう事だよ」
 いちごはしゃがみ込み、目線をりくに合わせた。
「この格好を見ろよ」
 言われたとおり、りくの服装を観察してみる。いつも通りだった。ブラウスにロングスカート。可愛くそれでいて派手ではない、仕立ての良い洋服だ。りくは器量よしなので本当によく似合っている。
「俺……最近こんな服着ても……なんも感じないんだよ……ああ、いつも通りだなって思うだけなんだ」
「うっ」
 いちごは言葉に詰まった。りくが言いたいことがよく分かったからだ。
 りくは、自分は男なのに女性の服を着ることになんの違和感も感じないと言っているのだ。
「朝起きて、鏡を見るんだ。そうすると普通に女の子が映ってるんだ。そんなことは今更なのは解ってる。でもさ、なんか……格好いい男を見るとちょっとドキドキするし……仕草もさ……ふと気がついたら女の子っぽいことしてるし……可愛い小物とか見るとほしくなるし……まさか、第二次成長期が……」
 そう言うりくは、両手で胸を押さえてうつむき加減で涙目だった。その手の人ならよだれを垂らすかわいらしさだ。
 今、りくに何がおきているのか、いちごには解った。自分が女の子の体だと言うことを意識するあまり、頭の中にある女の子像を演じてしまっているのだ。
 よくない傾向だった。
 いちごはりくの小さな肩に両手を乗せた。
「落ち着けりく。自分の体を見ろ。まだ10才にも満たない体じゃないか。男だとか女だとかそんなことは大して関係ない年頃だぜ」
「でも、いちご」
「お前はちょっと弱気になってるだけなんだ。そんなもの、すぐに吹き飛ばせる」
「でもいちご、俺達が元に戻れる保証なんて無いじゃないか。俺は、きっとこのまま女の子として成長するしかないんだ。そのうちあの生理がやってくるんだ……」
「りく。落ち着くんだ。そして聞いてくれ」
 いちごは力強く囁いた。
「俺達が男に戻れる方法が見つかった」
「なんだって」
 りくの目が光った。
「もう一度言ってくれ。それは……本当なのか? 後生だから……冗談は止めてくれよ」
「戻れる方法が見つかったんだよ。お前が協力してくれるなら、運命を変えられるんだ! そう空奈が言っていた!」
 いちごは、空奈に聞いた話をりくに聞かせた。
 りくはどうやら空奈のことを、というより彼女の家のことをよく知っていたらしい、馬鹿にせず律儀に頷きながらも最後まで聞いてくれた。
「そうか……あの影鳥の……!」
 りくはさっきとは違ってハイテンションだ。つられていちごもテンションが上がる。
「じゃあ行くぞ! 宝石を手に入れないといけない!」
「宝石……ならイルダさんだ! 彼女はコレクターだ、目的に叶った宝石を持っているに違いない!」
「よしっ、急ぐぞ!」
 こうして二人は元気よくイルダを探しに出かけたのだった。

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月食に願いを  の続き

 投稿者:てぃーえむ  投稿日:2007年 9月 2日(日)22時03分7秒
   それから2時間後。
 ロビーにて、仕事から戻ってきたイルダに遭遇した二人は、彼女をカフェへ連れて行き、協力を要請した。
「なるほど」
 話を聞かされたイルダはこくりと頷いた。
「月食を利用した儀式魔法ですか。図を見る限り、私の知らない魔法のようですね」
「そんなわけだから、宝石を貸してもらえるとうれしいんだが」
 いちごは、乱暴な口調と裏腹に、丁寧に頭を下げた。それに続いて、りくもぺこりとお辞儀する。
「ちょうどルビーの原石が手に入ったところですし、興味深い話でもあります。いいでしょう、お貸ししましょう。ただし私も立ち会わせてもらいますね」
「ああ、構わないぜ。時間は7時からだから」
「今は……もう6時じゃないか。じゃあ、ここで飯喰ってそれからにするか」
 りくの提案に、いちごは乗った。
 それからおのおの好きな食べ物を注文し、腹ごしらえする。
「おーい、いちごー」
 脳天気な声が呼びかけてきた。確認するまでもない。5号である。彼もちょっと早い夕食に来たらしい。
「イルダさんと一緒なんて珍しいな」
「これから用があってな。協力してもらうんだよ」
 カレーライスを口に運びながらいちごは言う。
「なにかするの?」
 5号は、イルダに向き直って尋ねた。
「はい。これからお二方を男性に戻す儀式を執り行うのですよ」
「………………。おとこ?」
 ぎぎぎっと首をきしませながら、5号はいちごに顔を向けた。
「じょうだんだろ?」
「いや、いたってまじめだが」
「嘘だと言ってよいちご!」
「本当だしな」
「まあ、そう言うなよ5号」
 りくが助け船を出してくれた。
「りくちゃん!」
「元の戻るのは俺達の悲願なんだよ。解ってくれよ。な?」
「う……、うわーん! 男のいちごなんて嫌だー!」
 5号は、りくの真摯な瞳に押されたのか、泣きながら去っていった。
「やれやれ。騒がしい奴だぜ」
 肩をすくめるいちご。
 イルダは5号が去っていった方向を、不思議そうに見ていた。脳天気でよく分からない行動を取るのは同じなのだが、普段の5号は、やはり彼は数学の天才なのだなと思わせるものを言葉の端に持っている。でもいちごがそばにいると、ただの脳天気馬鹿にしか見えないのだ。そのギャップが、イルダを戸惑わせているのだろう。
「いつものことさ」
「はあ……」
 それでも、彼女は納得のいかない顔。
「ま、気にするなよ」
 いちごはそう言うと、カレーライスを口にかき込んだ。



 食事を終えた3人は屋上へ向かった。
 途中、事務室によってチョークや他の道具を借りるのを忘れない。
「さて、時間だ。確か、屋上の真ん中にりくを立たせるんだったな」
「真ん中ね……ここら辺かな?」
 適当に、りくが場所を見繕って立つが、イルダは首を横に振った。
「いけません。こういった儀式はちゃんと決められた通りにするものです。ここはちょうど長方形ですから……ここが中心ですね」
 イルダがりくの手を取って、中心へ連れて行く。
 時間はちょうど7時。空を見上げると、月がかけ始めていた。このまま行くと、月は隠れて、普段とは違う赤くて暗い色になる。
「よし。じゃあ描いていくか」
 いちごは白いチョークを手にして、図を書き始めた。イルダは離れたところで見学している。
 途中、何度も描いてはちょっと離れて見たりして、図の通りになっているかどうか確かめる。最初は容易いことだと思っていたいちごだが、しゃがみ込んで線を引くのは予想以上の重労働だった。
「あー……腰が痛てえ」
「手伝おうか?」
「おっと、りくは動くなよ。そう言うことになってるんだ。まあまかせろよ」
 やがて、屋上に奇妙な図が書き上がった。空奈はゆがんでいても良いと言っていたが、いちごの性分だろうか、きっちり図と同じように出来ている。
 いちごは図の外に出てイルダの隣に立つと、りくに声をかけた。
「よーし、時間もぴったりだな。じゃありく、早速やってみてくれ」
「ああ!」
 りくは、イルダから借りたルビーの原石を月食ににかざした。そして、ルビーを通して月食を覗く。
「……」
「……」
「あれ、何も起きないな」
 いちごは呟いてりくに近づこうとしたが、イルダはそれを押し止めた。
「待ってください。危険です!」
「へ?」
 いちごが疑問符を浮かべたその時だった。
 屋上に描かれた図が、一瞬だけ赤い光を放った。そしてその瞬間、異様な気配が生まれた。
「ふふ」
「どうしたりく!」
「ふはははは!」
 高笑いと共に、りくの体が浮かび上がった。
「うわっ!」
 いちごは思わず顔を背けた。赤い風がりくのからだから吹き出しているのが解る。これが月食の力という奴らしい。しかも風はどんどん強くなっている。
「すさまじい力です。際限なく力が増幅されていくのが解ります。正直これほどまでとは思っていませんでした……」
 冷静そうなイルダだが、その声は僅かに震えていた。
「いちごっ!」
「なんだ!」
 りくがこちらに顔を向けた。普段から赤い瞳が、月食と同じ濁った赤光を帯びている。普段と同じ幼女の姿なのに、おぞましいまでのすごみと美しさがあった。きっと伝説に出てくる大妖怪達はこんな感じなのだろう。もしこの場に妖怪ハンターみたいな人がいたならば、逃げ出すか、討ち死にする覚悟を持つ事だろう。
「まずいですね。これだけの力が暴走すれば、春さんでも……いえ、神でも止められないでしょう……」
 暴走を心配するイルダの声。
 彼女がこれまでのんきに見物していたのは、このハンター本部には強力な力がいくつか存在していることを知っていたからだ。儀式がでたらめならば何も起こらないし、成功すればそれで良し。自身の好奇心も満たされ、彼女たちは元の姿に戻れてめでたしだ。失敗したり暴走しても被害を食い止めるだけの力がこの組織にはある、そう踏んだからこそ見物に回ったのだ。しかしこれは予想外だった。
 ……まあ、イルダの恐れは杞憂に終わるのだが。
「すごいぞこれは! なんだって出来る気がする! 今ならきっと宇宙だって滅ぼせるぞ!」
 ものすごい告白をするりく。しかしいちごは汗の浮かぶ手を握りしめた。
「じ、じゃあ、俺達を元に戻すなんて簡単だよな!?」
「当然だ!」
 そう。今のりくには、元の姿に戻ることしか頭にないのであった。
「よーし、聴け! 華代被害を受けたハンター達!」
 りくの声が屋上に響いた。いや、屋上だけではなく頭の中にも直接響く。念話で語りかけているのだ。
「元に戻りたいと願う奴がいたらそう願え! そうすれば俺が元に戻してやる! 解ったな!? じゃあ行くぞ!」
 りくの体から、膨大な力が放たれた。その気になれば人の運命を変え、真城華代を滅ぼし、世界を再構築できるほどの力を持った赤い光だ。
 そして……。




 ある居酒屋の大部屋にて。
 いちごたちは飲めや歌えやの大宴会を行っていた。
「はははっ、ほら、飲めよ!」
「いや悪いなあ。あはは」
 そう笑いながら酒を交わし、友愛を暖めているのは、ごっつい男に戻ったいちごとりくである。これがあの可憐な少女だったなど、誰も信じないだろう。
 他にも、12号、32号、35号、57号、61号、そして63号がお祭り騒ぎをしていた。
「100号! お前まで元に戻るとはちょっと意外だったな!」
 いちごは、隣で静かにお茶を飲む100号に声をかけた。
 彼は、ちらりといちごを見ると、いつも通りの冷静な口調で語った。
「女より男の方が都合が良いというだけだ。女は生理がある以上、どうしても精神にぶれが起きてしまう。常に万全の体制で仕事に当たるためには男の方が良い」
「でもよくここまでついてきたな。こういう席は苦手そうに見えるが」
 今度はりくが尋ねた。
「そうだな。正直、自分自身も驚いている。だが、どうにも行くべきだという直感に逆らえなくてな……」
「ふーん? まあせっかくだから楽しんでいけよ」
 それからしばらく宴は続き、宴はたけなわとなったところで客がやってきた。
 空奈である。付き添いなのか23号もついてきている。
「おお! 空奈じゃないか!」
 いちごは笑顔で出迎えた。
「おかげで見てくれよ、すっかり元通りだ」
 分厚くなった胸板を叩きつつ、野太い声で喜びを表現する。しかし空奈はひどく浮かない顔をしていた。
「それがいちごさんの姿なのね。向こうがりくさんかしら。写真では見たことがあったけれど、こうしてみるとやっぱり大きいのね」
「はっはっは、照れるなあ」
 いちごは頭を掻きつつそう笑った。普段のいちごならしないだろう態度だ。よほど浮かれているらしい。
「でも残念だわ」
 その声は、大部屋全体に響いた。当人は控えめに声を出したつもりだろう。でも、彼女の声は高く澄んでいてよく通るのだ。
「な、なんのことだ?」
 不吉な物を感じたのか、りくが尋ねた。
 空奈はため息をついて答えた。
「あなた達は……運命を変えられなかった」
「…………へ?」
「言ったはずよ。元に戻るだけならば方法はいくつかある。でも運命が邪魔をするって」
「ああ、だからこうして……」
「元の姿に戻った。それだけでしょう」
 いちごの台詞を遮って、空奈は言った。
「……………………あ」
「とても残念だわ」
 そう言って空奈は首を振る。それと同時だった。いちごの背丈が縮んだ。りくも縮む。他の男達もだ。そして服が変化していき……その場に男は23号だけになった。
「…………」
 メイドになったいちごは声が出せない。うさ耳少女になったりくは固まっている。他の連中も茫然自失。
「ふむ。女に戻ってしまったな」
 一人だけ冷静な100号が呟くと同時に、声が聞こえてきた。
「いちごおおおおおおお!」
 凍り付いた大部屋に、もう一人、客が飛び込んで来る。
「いちご! 会いたかった!!」
 5号がいちごに抱きついた。いちごはなんの反応も示さない。
「迎えの車は用意してあるわ。服は、持ってこようとも考えたけれど、着替える気力はないだろうから持ってこなかった。それじゃあ、ね。行きましょう、二岡さん」
「あ、うん。それじゃあ失礼します」
「……ふう、鬱だわ」
 空奈は、23号を伴って出て行った。
 大部屋は相変わらず凍っている。
「ああ、いちご! やっぱりいちごはこうじゃないと! 男のいちごなんていちごじゃない! 華代ちゃんに頼んだ甲斐があった!」
 5号の叫びに、いちごはぎぎぎいっと動いた。
「貴様、真城華代にお願いしたのか」
「ああ!」
 5号は、親指を立てて頷いた。良い笑顔をしている。しかし笑顔なのはいちごも同じだった。りくも笑ってるし、他の連中も。35号など、笑顔のまま裾から大太刀を抜き出している。ただ、100号だけはやれやれと肩をすくめていた。
「あれ? いちご、どうしたの?」
 それが5号の本日最後の言葉になった。





「そうか。解った、戻ってきて良いぞ。ではな」
 病院にいる部下からの電話を切ったボスは、目の前に立つイルダに向き直った。
「それで、彼の容態は?」
「なんとか峠は越したようだ。その場に100号と救急車がいたのがよかったな。5号は運が良い」
 ボスは、やれやれと首を振りながら答えた。ちなみに、その場に救急車がいたのは、あらかじめ空奈が呼んでいたからである。
「まあ話は分かった。ちょっと変わってはいるが、結局いつも通りのことになったな」
「はあ……。しかしあの儀式はなんだったのでしょう? 恐ろしく強大な力を生んでいましたが」
「ああ、月兎の秘奥か。影鳥に伝わる儀式の一つだな。特殊な方陣の中、汚れのない兎の瞳に、無垢な宝石で集めた月食の魔力を注ぎ込む。そうすると魔力は兎の瞳の中で増幅されるから、あとは瞳から力を引き出しておのれの力に変えるんだ。だが、兎は月食の力に耐えられずにすぐ死んでしまうから、得られる力は大したほどではない。それに、月食が雲などで遮断された時点で力は消えるしな」
「まさか、生け贄を捧げて力を得る儀式だったのですか?」
「そうだ。だがりくは人であると同時に兎でもあるからな。自分自身を使えばいい。りくは黒兎、しかも華代の力を受けて変化した兎だから月食の力にも耐えられるし、ハンター能力を操る人間だからその応用で力の制御も出来る」
「しかし、万が一のことがあれば大惨事になるのでは」
「ならないさ。制御できることは解っている。空奈が大丈夫と言った以上、儀式自体は成功する。あいつはそのあたりは完璧な奴だからな。あとは力の悪用だが、それもない。実際あの時、りくは元に戻ることで頭が一杯だっただろう? 万が一のことがあっても、月食を覆い隠せばそれですむ。それをとっさに行うだけの知識と力を持つ者がここにはいる事を、君は知っているだろう」
「なるほど……」
 イルダは納得したようだった。
「でも、よく知っていますね」
「こう見えて博識なのさ」
 ボスはにやりと笑った。実に食えない笑顔である。それを見たイルダは一つ疑問に思った。そんな知識があるなら何故、真城華代対策に使用しないのだろうか。
 ボスは、イルダの疑問に気がついたらしい、笑顔をちょっと苦いものに変えた。しかし、あえて答えを口にすることはなく、替わりに別のことを言った。
「それにしても、いちご達は例によって引きこもりか……。これもいつも通りだな。まあ今回ばかりは、3日くらいは休暇をくれてやるか」
「それが良いと思います」
 イルダも疑問を胸にしまいこみ、賛同して頷く。
「まあ宝石も無事でしたし、今日はこれで良しとしましょうか。それでは、私は失礼しますね」
「ああ」
 イルダが去っていき、部屋にはボスだけが残った。
「しかしうちの最強力の一つを使った結果が重傷者一名と引きこもり多数とはな。どうせ5号はすぐ復活するだろうし……。やれやれだな……」
 ボスはそう呟くと、立ち上がって部屋を出た。

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ハンターシリーズ 本当の自分

 投稿者:冥龍  投稿日:2007年 8月20日(月)22時53分59秒
  僕は、最近この秘密組織『ハンター』にスカウトされた、
大神 空護(おおがみ そらもり)、ナンバーは95号。
身長190cmもあり、身体能力はそこらの特殊部隊よりも上、
一流大学卒業で、顔も綺麗に整っている。
友達にも羨ましいと言われたけど、そんな僕にも悩みがある・・・。



特に任務も無く、自分の部屋に篭もるのもを良くないので、どこかに出かけようと思い、
着替えて部屋の外に出た瞬間、大きな声が聞こえた。
声が聞こえた方に行ってみると、いちご先輩と五代先輩がいた。
「いちごー!待ってよー!」
「あー!来るんじゃねぇー!」
五代先輩がいちご先輩を追いかけてるみたいだった。せっかくなので、挨拶しよう。
「いちご先輩、五代先輩、おはようございます」
「来るなー!って、お前は・・・最近入った95号か、
おはようって、立ち止めさせるな!」
「おはよう!ありがとう、いちごを少し止めてくれて!」
と、走りながら挨拶をして去って行った。
(五代先輩、羨ましいな・・・・)





近くの公園のベンチに座って、顔を下にむけて、大きく溜め息をした。
(・・・僕も、五代先輩の様になりたい・・・)
と、考え事をしていると、
「お兄ーさん、どーしたんですか?」
女の子の声がした。前を見ると白い服を着た、10歳くらいの女の子が立っていた。
「お兄さん、なにか悩み事ですか?」
「・・うん、そうなんだ。・・・君は?」
「あっ!ごめんなさい、私こうゆう者です!」
そう言って女の子は、名紙を渡してくれた。
『ココロとカラダの悩み お救いいたします 真城 華代』
「えーと、ましろ かよちゃんでいいのかな?」
「はい!そうです、セールスレディなんですよ!」
「そうなんだ」(・・・どこかで聞いた事ある名前だな)
「それでお兄さん、悩みってどんなのですか?」
「・・聞いてくれるかな?」
「はい!セールスレディですから!」
「・・ありがとう、じゃあ言うね。・・・僕は昔からカワイイものが好きなんだ。
見たらすぐ抱きしめたいくらいにね。人形とか動物とか・・・・あと女の子、
子供の頃は良かった、でも大人になっていくうちに隠すようになっていた。
けど、人形とかなら家でも抱きしめられ。でも、女の子はそういかないだろう?
華代ちゃんも、いきなり男の人に抱きしめたら、いやだろう?
今までは、そこまでカワイイ子いなっかたから良かった。
でも、今働いてる所は、カワイイ子がいっぱいいる。
・・・・・自分の本当の気持ちをさらけだしたいんだ、けど・・・・」
「えーと、お兄さんは女の子を抱きしめられる様になりたいんですか?」
「・・・・そうなるね」
「わかりました、任せてください!そうだお兄さんの名前は?」
「大神 空護だけど・・・?」
「ちょうど良かった!ある人に自分の代わりになる人を探して欲しいって
言われたたんです。それじゃあいきますよ!」
「え!?」
すると、190cmあった身長は縮んでいき、160cmくらいになり、
水色のショートヘアは腰まで届くロングになり、胸は膨らみ豊満に盛り上がり、
お腹は程よく引き締まるが、割れていた腹筋は見えない。
腰まわりはくびれ、引き締まっていたお尻は丸みをもつ。
着ていた服は、白のパーカーは黒のオーバーコートになり、
Tシャツは赤いランニングシャツになり、ジーンズは裾が膝上までになる。
「何がおきたんだ・・、ん?服が!あれ?声が高い!」
「お兄さん、これ見てください」
と、華代は手鏡をだしてくれた。そこには自分の顔は無く、
ちょっと童顔の女性の顔があった。右眼は水色だが、左眼は赤い。
「・・もしかして、これが僕?」
「はい、そうです!これで女の子を抱きしめられますね!」
「確かにそうだけど・・・」
「大丈夫!本当の自分になれますよ!」
「華代ちゃーん、遊ぼうー!」
「あっ、りくちゃーん!」
声がした方を見ると黒い兎耳が特徴の少女がいた、りく先輩だ。
「あれ?あなたは?」
(本当の自分か・・)
次の瞬間、僕はりく先輩をだきしめていた。
「あ、あの?」
「あーーーー!!!先輩カワイイ!!前から見てたけど本当にカワイイ!」
「先輩?ってことはもしかしてお前ハンターか!?」
「はい!最近入った95号です!先輩、本当カワイイ!我慢出来ない・・ごめんなさい」
「え、は?何を、やめろーーーーーー!!!!!」





「はー、やっと五代の奴をまいたよ、・・疲れた」
「いちーごセーンパイ!」
「うぉ!!ってあんた誰!?」
「あっ、やっぱり分かりませんよね。僕、95号です!」
「95号?・・・って今朝の!?」
「はい!そうです!」
「もしかして、もしかしなくても、華代だよな!?」
「そうです!あの子のおかげで本当の自分になれました!」
「女になりたっかたのか!?」
「違いますよー!カワイイ子抱きしめることです!で、いちご先輩、この服着てくれませんか?」
と、出てきたメイド服。
「いやだ!やめろー!」
「だめですよー!待って下さいー!」





被害者は、語る。
「私が和菓子を食べてる時に、いきなり抱きついてきた。あれには驚いたよ、・・・すまない、これ以上は思い出したくない・・・」
「千景を探している時に、後ろに気配を感じたと思ったら、いきなり襲いかかってきた!
しかも、俺の剣をすべて避けて抱きついてきた!その後は・・・・思い出したくない!」
「耳とか尻尾とか・・思い出したくない・・」





「で、いちごも引き篭もっていると、原因は?」
「それが、いちごがいつも以上に引き篭もっていて、精神の中まで」
「早めに出して来い、あと95号の戸籍だが・」
扉が開き、そこには95号がいた。
「こんにちはー!ボス!95号です!」
「・・・何のようだ?」
「戸籍の事なんですけど、自分で改ざんしたので大丈夫です!」
「なんだと?」
「この身体になってから、何でも出来るようになりまして!力も上がってます!あと名前なんですけど・・・」
「・・新しい名前は?」
「クーゴ・ハンターです!改めて、よろしくおねがいします!それじゃあ!」
「・・ついでだ、いちごを出して来い」
「了解!」
扉が閉まる。
「真面目なのが騒がしくなったな・・」
「・・・・・・・・・・・そうですね」
 

真城 悠

 投稿者:珊瑚の研究  投稿日:2007年 8月 3日(金)17時28分13秒
  第331回(2007年08月03日(金))
『ふむ。いい声だな。終わったら食事にでもどうかな』
「遠慮しておきます」
『冗談だ。ともあれ出現予想範囲を言う。その範囲にいるハンターは今のところお前だけだ』
 出現予想範囲が読み上げられた。確かに今、自分はそのごく近くにいることが確認できた。
 礼を言って電話を切る。
 

珊瑚の研究

 投稿者:真城 悠  投稿日:2007年 8月 3日(金)00時35分48秒
  第327回(2007年07月30日(月))
 暗証番号を確認すると、29号は安心して話を続けた。
「現状の進展はありません。単独ミッションにて華代探索作業中です」

第328回(2007年07月31日(火))
『何?単独ミッションだと?』
 意外そうな声だった。
「はあ…そうですが」
 組織内でこちらの動きを知らないのは仕方が無い。特に個別の対華代ミッションは広報される訳でもないのである。

第329回(2007年08月01日(水))
『だったらいいニュースかもしれないな。近くに華代反応がある』
 29号に緊張が走った。
「…そう…ですか」
『それにしてもいい声だな。データによると男のはずだが』
「3号のお陰ですよ」

第330回(2007年08月02日(木))
 一瞬間があった。
『…なるほど。そういうことか』
「ええ。いい煙幕になります」
 29号は強がりを言った。
『それにしてもそんな状態で単独ミッションとは…』
「色々ありましてね」
 

イルダさんの小ネタ集 追加分

 投稿者:ELIZA  投稿日:2007年 7月 5日(木)11時35分40秒
  【書き間違い】

 77号「そういえば、どうして「魔女」を「ウィッカ(wicca)」と男性形で言っているのですか?
     イルダさんは女性だから女性形の「ウィッチェ(wicce)」になるはずなのに。」
入田利康「…俺がキャラクターシートを作った際に間違えたんだ。」

【死活問題】

 64号「師匠、大変です! 『ローストロース』に『ガールス』のエラッタが出ました!」
 49号「何ですって!
     …これはまずいですね、『連結』を始めとした上位魔法が非常に使いにくくなってしまいました。」
 64号「師匠、この文だと『庇護』は使いやすくなったと読めるのですが。」
 49号「試してみましょうか…本当ですね、64号さんにも簡単に『庇護』がかけられました。」

*ローストロース…TRPG月刊誌の1つ。
 ガールス…TRPGのシステムの1つ。イルダ・リンカーンはこのシステムで作られたキャラクターだった。
 エラッタ…誤りの訂正のこと。「イレータ(eratta)」のローマ字読み。

【キャラクターシートの記入事項 その2】

*この話は、ハンターミニミニ劇場67「戦隊物@増加中」の後の話になります。

半田美央「そういや、イルダさんは誰の性格になったんだ?」
 49号「作成したキャラクターシートに性格を書き込む欄がなかったので、性格は変わらないんですよ。」

【レベルアップ その2】

*この話は、ハンターシリーズ97『二岡くん、今度は影の人と出会う』の後の話になります。

 49号「…あれ、二岡さんに変身できない?
     二岡さんに何かあったのでしょうか。」

 96号「二岡くん、パトロールの時間だよ。」
 23号「…へーい。」
 97号「今日は流れが変わったから、大変になるわよ。」
 23号「そんなぁ…。」

 49号「…なるほど。
     二岡さんのキャラクターシートを成長書き換えする必要が出てきましたね。」

http://www.geocities.jp/eliza_evans_3rd/

 

公園にて その2

 投稿者:てぃーえむ  投稿日:2007年 7月 1日(日)21時18分13秒
   夏の昼下がり。
 公園から聞こえてくる歌に、疾風は足を止めた。
 どこの国の歌かは解らない。技量もまだ未熟と言わざるを得ない。でも緩やかで、寂しい祈りが込められたその歌声は、水面を抜ける風のように聞く者の心を揺らしていた。これは鎮魂歌だ。死んでしまった人のための歌だと疾風は直感した。
 手にしたクレープを一囓りすると、誘われるように公園に足を踏み入れて歌い主を捜す。
 公園の奥の方、いつも休憩に利用しているベンチにその少女は座っていた。顔を空に向け、しかし目を閉じて歌っていた。
 年の頃はおそらくは今の自分と同じくらいだろう。喪服のような黒いツーピースの少女。普段は外に出ないのか、それとも遺伝なのか真っ白な肌をしている。なんとなく、古い人形店の奥でひっそりと眠るアンティーク人形を思わせるような少女だった。
 彼女は近寄ってくる人の気配に気がついたのか、突然歌を止めると、目を開いた。そしてぼんやりと、朱色の瞳で此方を見つめてくる。
「はじめまして」
「あ、ああ……はじめまして」
 声をかけられた疾風は、とまどいながら挨拶を返した。そんな様子がおかしかったのか、少女はおもしろそうに目を細めて立ち上がり、それから言葉を続けた。
「名乗るわね。影鳥空奈、一応、ハンターよ」
「ハンター?」
 お辞儀をする少女に頭を下げ返しながらも疾風は声を上げた。ハンターとは、疾風が居候している組織のエージェントのことである。政府の機関であるにもかかわらず、小さな子供から大きなおじさんまでそろっているので、見た目が中学生の彼女がハンターであることは別に不思議なことではない。華代被害者だろうか。
「どうぞ黄路疾風さん」
 彼女はベンチに座るよう、促してきた。やはりというか当然というか、彼女は此方の名前を知っているようだ。
「本当はもっと速く会いたかったし、基地内で会っても良かったのだけど……、貴女は随分と忙しそうだったから、ここで待つことにしたの」
 そんな空奈の言葉に、疾風は苦笑しながら、少女と少し距離を置いてベンチに座った。
 そう。あの浅葱千景と再会してから、いや、出会ってからずっと、彼女を追いかけることに没頭していたのだ。こうして一人で町に出るようになったのも最近のことで、それまでは何よりも千景を追いかけることを優先していた。今日だって、基地に戻れば早速、千景を捕らえるために行動することだろう。自分でも、なぜここまで彼女にこだわるのかと半ばあきれる思いだが、どうしても勝ちたいし負けたくないのだから仕方がない。きっとそういう運命だか宿命だかなにかなのだろう。
「ここで待つって……俺が立ち寄らないかもとは思わなかったのかな?」
「思わないわ。だって、いつもそうするようにしているのでしょう」
 疾風の手の中にあるクレープを見つめつつ、空奈は言った。
 確かに、街に出た際はクレープを買って公園のベンチで食べるのが最近のパターンだが、どうやら彼女は、此方のことは調べ済みらしい。
「ところでその髪型だけど似合ってるわね。浴衣にも合っているし。可愛いわ」
「…………」
 疾風は赤面した。普段はただ後ろでしばっている銀髪が、今は綺麗に結い上げられ、かんざしで飾られている。普段の疾風を知っている者ならば、話題にあげるのはごく自然なことだろう。でも面と向かって言われると恥ずかしい。
 それを察してくれたのか、空奈は話を変えた。
「今度の新作ケーキはどうだったのかしら。おいしかった?」
「ああ、おいしかった……。え、新作?」
「ええ。今日はあのお店、臨時休業だったでしょう」
「あのお店って……」
「ラ・フレーズよ」
「ああ。うん、まあそうだったが」
「ほらやっぱり」
 疾風がこくこく頷くと、空奈は明瞭を得たとばかりににっこり笑った。
「ちょっと……」
「貴方が街に出たのは1週間ぶりよね。臨時休業の知らせが出たのが三日前だから……貴女、店まで行って休みに気がついたのね。落ち込んでたらたまたま店長に会って、それで試作のケーキをごちそうになったのでしょう。あのお店、臨時休業の日は決まって新しいケーキを考えているから。それから髪をいじられたのじゃないかしら。あそこの店長は可愛い子が好きだから、貴女みたいな子を放っておくわけがないし」
「ちょっと待ってくれ。なんでそこまで解るんだ」
「あら、間違っていたかしら」
 首をかしげる空奈を見つめながら、疾風はさらに戸惑う。
「間違ってはいないが……。もしかして俺の後をつけてたのか?」
「いいえ」
 空奈はきっぱり否定した。疾風としても、誰かにつけられていたのなら絶対に気がつくはずだった。
「それくらい見れば解るでしょう」
「いや普通は解らないだろう」
「そうかしら。でもその香り、紅茶の匂い袋よね。あのお店ね、以前に期間限定で匂い袋を配ってたのだけど。それが好評だったからまた配るって聞いていたし……、一足先にプレゼントされたのでしょう。クレープがいつもと違うのは、お腹にちょっと余裕がなかったからよね。今日は沢山ケーキを食べたから」 確かに普段はボリュームのあるクレープを頼む。しかし今日はシンプルなものを選択していた。彼女の言うとおりの理由でである。懐にしまった匂い袋に触れつつ、内心で驚く。この子は、すごく頭がいいらしい。
「……君は、まるで探偵みたいだな」
 探偵として名が通っている千景よりもずっと探偵らしい。そう言ったら、空奈は首を振った。
「あら。千景は本当の探偵さんよ。わたしなんかよりずっとすごいわ」
 淡々としたその声色の奥には、羨望のようなものが混じっているように思える。この反応からして、どうやら彼女と千景は知り合いのようだった。
 空奈は、公園の時計に目を向けた。つられて疾風も見てみると、もうすぐ四時だ。
「そろそろ来てもいい頃なのだけど……」
「誰か呼んでいるのか?」
「呼んではいないわ。でも……あら、来たようね」
 今度は公園の入り口に目をやると、確かに誰かが此方に近づいてくるのが見えた。いや、誰かなんてものではない、千景だった。相変わらず、この暑い中でコートを羽織っている。手にした紙袋の中身は和菓子に違いないだろう。
 空奈は立ち上がって、千景を迎え入れた。
「ごきげんよう」
 千景は少しだけとまどいの気配を見せていた。どうして二人がここにいるのか解らないと言いたげな表情だ。
「ごきげんよう。どうして?」
 端的な問いかけだったが、その言葉の意味を正確にくみ取ったらしい。
「おしごとの途中でここに立ち寄ったの。あそこのクレープは美味しいって聞いたから、二岡さんによってもらったの。彼は車で待機してもらってるわ。ちょっと離れてるけど……この距離なら問題は無いでしょう。それとここにいる理由はもう一つ。今日は、二人がここをこの時間に通るから。話があるの」
「話か。ううむ……」
 一体何を想像したのやら、千景は眉をひそめた。
「別にそんな身構える事じゃないわ。もちろん、ちゃんと聞き入れてもらわないと困るけど」
 疾風には何のことだか解らない。しかし千景は覚えがあったらしい。
「それは……昨日の件か?」
「ええ、そうよ」
 空奈が頷くと、千景は途端に情けない顔をした。貴重な表情だ。
「決闘するのは結構だけど、あなた達、最近派手にやり過ぎよ。仲がいいのは良いことだと思うけど、周りの迷惑も考えてもらわないと」
 ここで疾風にも理解できた。連日の鬼ごっこに、とうとう苦情が来たらしい。
 しかし腰に手を当てて胸を張る姿は、まるで子供をしかる先生のようだなと感心していると、矛先が此方を向いた。
「黄路さん、貴女にも言っているのよ」
「は、すみません」
 ついつい敬語で返事をしてしまう。
「三日前は、カフェのテーブルを壊しちゃったでしょう? 春さんは働いて弁償することで許したようね……、まあ可愛い子がウエイトレスすれば客が増えるから、あの人にとっては怪我の功名なのでしょうけれど。でも上層部ではこれがちょっとした問題としてあげられたわ。それでその矢先」
 ここで空奈は疾風を睨み付けた。
「貴女、昨日は危うくけが人を出すところだったでしょう」
「うっ。そっ、それは千景がだな」
 とっさに言い訳しかけたが。
「…………」
「ごめんなさい」
 眼力に負けて、結局、疾風は素直に頭を下げた。
 確かに、あれはすこしまずかった。昨日もいつも通り、障害物とゴム弾を利用しつつちょろまかと逃げる千景を追っていた。初めはそれなりに冷静であったが、次第に千景の挑発で周りが見えなくなってきた。それも、人様に迷惑をかけぬように注意していたつもりだったが、所詮はつもり、あやうく職員をぶった切るところだった。たまたまなぜか踏み込んだ先にバナナの皮が置いてあって、それを避けた折りに体制が崩れて剣筋がそれたのだ。バナナの皮が無くとも寸止めを成功させる自信はあったが、万が一ということもあった。
「それと」
 空奈は千景に歩み寄って、その顔をのぞき込んだ。
「千景もどうしてしまったのかしら。屋内でゴム弾をばらまくなって危ないことをするなんて。昔はそんなことする子じゃなかったのに。なにが貴女を変えたのかしら? それに、そんな堅い口調で話すこともなかったわよね。以前の暗い感じよりはいいけれど……。記憶のことを考慮しても、やっぱり気にはなるわね。そもそも持ったことがある銃はエアライフルだけのハズなのに、なぜ拳銃をあんなに上手に扱えるのかしら?」
 問いつめられて、千景はばつの悪そうな顔で目をそらした。
 空奈はため息をついた。そして疾風を横目で見る。
「いつもこの話をするとだんまりしちゃうのよね」
「…………」
 まるで疾風が理由を知っているかのような目だ。
「まあいいわ。話を戻しましょう」
 追求する気配を消して、空奈は千景から離れた。
「さすがにあんな事がおきては組織も放っておくわけにはいかないのよ。でもね、わたしとしては二人を押さえつけるようなまねはしたくないの。だからこういう事になったのよ。あなた達、ルールを作りなさい」
「ルールだと?」
「そう」
 疾風の反復に、空奈は答える。
「ちゃんと人様に迷惑をかけないためのルールをとり決めて、その上で仲良くケンカすること。組織としては最大限の譲歩よ。ありがたいでしょう。それに、平等なルールを決めれば、貴女にも十分に勝ち目がでてくるわよ」
「なっ。お、俺は今のままでも十分勝てるぞ」
 予想外のことを言われて疾風はどもりつつも反論したが、その言葉に力はあんまり無かった。なぜなら連敗を喫しているからである。
「まあ強がりさんね。でも恥ずかしがることはないわよ。少なくともハンター組織内では心理戦で千景に勝てる人はいないわ。探偵ですもの。元々そういうのが得意だし、情報収集もこまめにしているし」
 自慢するかのように話す空奈。対して千景は渋面だった。
「逆に単純な殴り合いになれば貴女が確実に勝つのだけれども……。毎回、心理戦に持って行かれてるから、だから勝てないのよ」
「むう……」
「まあとにかく、ちゃんとルールを作って、今日の……そうね、夜八時に、わたしに提出してね。部屋で待ってるから。不備があったら何度でもやり直しさせるから、そのつもりで」
 さすがに、ノーとは言えない。
 疾風と千景は、おとなしく頷くほかなかった。

 これからもう一仕事あるからと言って空奈は去っていった。
 その背中を見送ってから疾風は、ぼうっとたたずむ千景に話しかけた。
「知り合いのようだったが?」
「ん? ああ。幼なじみだ」
 そう言う千景は、普段の鉄面皮がとれて、軟らかい表情をしていた。武器を所持した状態でこんな顔をするのは、いや、所持していない状態でも極めて珍しいことだった。それだけ彼女にとってさっきの少女は親しみを持った相手ということだろう。
「四歳が、五歳くらいか。それくらいからずっと友人だったよ」
「貴様、記憶がないとか言ってなかったか?」
「おぼろげながら残っている事もあるとも言ったはずだが」
 考え直せば確かに、そうも言っていた気がする。
「まあ、彼女と再会してから思い出したことも多いがね」
「そうか。それにしても、恐ろしく頭のいい子だったな……。あの子、俺の姿見ただけで俺の今日の行動を見抜いていたぞ」
「ああ。空奈は私よりずっとすごいからな」
 千景は、彼女の能力を誇るかのように断言した。なんだか先方と同じような事を言っている。
「仮にも秘密組織で働いているだけあるな…………ん?」
 ここで一つ、引っかかった。空奈は千景の幼なじみだという。ということは、彼女は華代被害者ではなく、見たままの年齢だということではないだろうか。つまり中学生だ。政府の機関がそんな本物の子供を雇っていいのだろうか?
 その疑問を口にすると、千景は少し悲しそうに笑った。
「使えるものは使う。それはこの国でも同じ事だよ、疾風。だから君もここにいられる」
「ふむ……」
「しかし、ハンター能力があったのは幸いだった。彼女の時読みは、よその機関にとっても喉から手が出るほどのものだからな」
「時読み?」
「バナナの皮だよ、君」
「?」
 なんだそれはと疾風は思ったが、それを問うことはなかった。千景は意地の悪い笑顔を見せている。こうなるとどうせ教えてはくれまい。怒って突っかかるのは簡単だが、それではいつも通りになってしまう。疾風は努めて、冷静になるように自分に言い聞かせた。
 それになんとなく、あの空奈という少女とはこれから長いつきあいになりそうな、そんな予感がした。きっと、そのうち答えを知ることになるのだろう。
「さて戻るか。速くルールを決定しなければならない」
「そうだな」
 二人はそろって帰路につく。
 公園を出てしばらく歩いた時、ふいに千景が言った。
「君、その髪型よく似合っているな」
「うるさい」
 疾風は顔を赤くした。
 

調子に乗りすぎました

 投稿者:フランティスカ  投稿日:2007年 6月 3日(日)12時53分57秒
  反省します もう少し 考慮いたします 然り  

(無題)

 投稿者:マコト  投稿日:2007年 6月 2日(土)21時34分58秒
  自己満足の為に人様の掲示板をお使いになるのはやめたほうがよろしいですよ?

http://www.geocities.jp/fantasydreamsjp/

 

スーパー華代のその後

 投稿者:フランティスカ  投稿日:2007年 6月 1日(金)15時05分37秒
  真城華代として、活躍する 彼女は 「ココロとカラダのお悩み お受けします 真城華代」通称 電車男の恋を上手く成就した 上流家庭の育ちの女性と、オタクでサラリーマンの青年は、交際を(健全な恋愛)因みに、彼に接近した時、携帯のカメラ付で撮ったりと、私生活を、リサーチ 彼女の側の情報と現状を伝え 「嘘をつかず、お兄さんの素直な自分を大切にして欲しい」とアドバイス チカンから助けたのが、きっかけで、うまくいった後、華代「今日も、上手くいったわね」レイン(とある宇宙人の星を救ったお礼にもらった究極の人造人間・女性型)「はい マスター(ご主人様)あの・・盆栽は」華代「お兄さんの 通った 大学の理事長からよ 私が見とれていたら 理事長さんが(君にも分るのかね!)と言われて、はい、答えたら 渡されたのよ 後で、庭に飾ろうかな(通称 華代ちゃんハウス)」そして、夜空に レイン「マスター(ご主人様)流星群です」つづく  

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